映画『X-Men: ダークフェニックス(Dark Phoenix)』感想(ネタバレあり)

First classキャスト編最終章。
ここまで来てようやく、X-Menシリーズって、チャールズ・エグゼビアさんの『家族に疎まれたトラウマ』昇華物語だったんだなぁ…と気づきました(笑)
というと貶してるみたいですが、コレが結構面白かった。
というわけで、まずはあらすじ的なところから―――

あらすじ

※盛大なネタバレを含みます。必ず映画をご覧になってからお読みください。
能力が引き起こした事故で、母親を死なせ、父親に捨てられたジーングレイ(ソフィー・ターナー)チャールズ(ジェームズ・マカヴォイ)は彼女を引き取り、その辛い記憶を封じて育てるのですが、“ミュータント=人類のためになる存在”アピールに必死になり過ぎて危険なミッションを強行し、それが元で、彼女は強大な”cosmic force“を取り込んでしまいます。

父親が実は生きていたことを知り、会いに行ったジーンは、そこで自分が捨てられたのだと気付いて爆発。追ってきたX-Menや警察を吹っ飛ばし、レイヴン(ジェニファー・ローレンス)は胸を貫かれて亡くなります。
狼狽えたジーンは、「どうしたら人を傷つけるのを止められるのか」と、ある意味、人を傷つけるセンパイなエリック(マイケル・ファスベンダー)に訊きに行きます。が、軍のヘリ壊すわ、人は吹っ飛ばすわで、自分の仲間は死んでも守りたい系エリックには、思いっ切り拒否られてしまいます。

一方、チャールズがレイヴンの死について後悔も取り乱しもせず、極ありがちなコメントに終始するのを見てキレたハンク(ニコラス・ホルト)。彼は、ジーンを探すためにエリックに協力を要請します。
そのジーンはというと、なんと怪しい異星人達に誘われて、ニューヨークのど真ん中に居ました。

この異星人達、実は“cosmic force”を利用しようとして制御しきれず、滅んだ星の住人です。彼女の力を奪った後は、地球人を滅ぼす気満々なのですが、彼女はそれを知りません。
そして、彼女を殺そうとやってきたエリック&ハンク。チャールズは、いつもの「まだ望みはある」的な演説で止めようとしますが、二人は聞かず、見事、彼女に返り討ちに遭います。

カート(コディ・スミット=マクフィー)の力を借りて建物に入ったチャールズは、自分の心を読ませ、彼女に”You are not broken“と語った過去を思い出させます。
ジーンは少しだけ落ち着きを取り戻しますが、自分の力を恐れるあまり、異星人に力を渡そうとします。スコットが何とか止めますが、そこで全員力尽き、吹っ飛ばされた異星人以外、まとめて逮捕。能力封じの首輪を付けられてしまいます。

列車で連行される途中、ジーンの力を奪おうとする異星人がまたも襲ってきます。自分達の力では歯が立たないと知った軍は、背に腹は代えられないとばかりに捕らえたミュータントを全員解放。
ハンクとエリックは、とりあえずジーンを守る側に加勢します。(←”I should never have lied to her. I was wrong“と反省モードのチャールズを見て、ジーンの爆発の原因を何となく察した模様)
エリック達が異星人達を食い止めている間に、チャールズはジーンの頭に入り込み、記憶を封じて嘘をついたことを謝罪します。そして、なぜそんなことをしたのかを語ります。

All I ever wanted was to protect you and give you what you deserve … what every child deserves(君を守りたかった。君に相応しいものを与えたかったんだ。どんな子供にも与えられるべきものを)”
… A family(…家族ね)”
Yes(そう)”
I know you did what you did out of love. I forgive you(愛の心でしたことなのよね。許すわ)”

目を覚ました彼女はチャールズ達を守り、襲い掛かってくる異星人達と戦います。しかし、この戦いが、側にいるスコット達の体を壊しかけていることに気付き、異星人と共に宇宙空間に上ります。
Your emotions make you weak
と笑う異星人に対し、彼女はこう反論します。
You’re wrong. My emotions make me strong(あなたは間違ってる。感情が私を強くするのよ)”
そして、異星人もろとも、爆発的な光を放って消滅します。

後日、恵まれし子らの学園は、ジーン・グレイの名を冠して再出発。ハンクが校長に就任します。
引退(というか、まあ引責辞任ですよね…)したチャールズは、とあるフランス語圏のカフェで、うだうだしていましたが、そこにエリックがやってきます。
携帯チェス盤を持って
A long time ago, you saved my life. And you offered me a home.(昔、お前は俺の命を救い、俺に居場所をくれた) I’d like to do the same for you(今度は俺が、お前に同じことをしたい)”
彼はそう言って、一戦やろうと誘うのでした。

恵まれし子らの学園長が一番恵まれてなかった話

この話、エグゼビアさんの弱さが結構丁寧に描かれています。
『ファイナルディシジョン』版のプロフェッサーXは、「これが正しい」的な上から目線でジーンの心を封じてる印象でしたが、First class時間軸のチャールズさんは、なんというか殆ど縋るように、ジーンに”家族”を与えようとしてるんですよね。
彼の認識は、”The mind of a psychic is a fragile thing(超能力者の心は脆い)”で、家族を傷つけ、家族に恐怖や忌避の目で見られた過去を持つ者は、決してトラウマを克服することはできないと思っている。なぜそう思うのかといえば、おそらくは自分がそうだったからでしょう。

『ファースト・ジェネレーション(First Class)』で、子チャールズは郊外の古城に置かれ、母親が作った食事を食べたこともないという状況にありました。そして、侵入してきた青い肌の女の子(レイヴン)を見て、「君も普通と違う」と、本当にほっとしたように笑うのです。彼はテレパスですから、そりゃあもう「勘弁」って感じの親の本音を”聞き”続けてきたんでしょう。
自分が無意識に深いと感じている傷だから、他人のそれをなりふり構わず癒そうとするし、そうすることでしか自分が満たされない―――そんな切実さを、このチャールズさんからは感じます。

ジーンが”I forgive you“と言い、チャールズ達を守ろうとしたのは、チャールズの”教育的”な話を思い出したからではなかったんじゃないかと思います。「チャールズは、私に家族を与えることを”必要と”していた」―――要は、自分は”生まれてこない方が良かった化け物”ではなく、”切実に望まれた何か”だったと実感できたことが大きかったんじゃないかと。
人を救うのは、必ずしも強さや純粋な慈愛ではないってことでしょう。

エリックとチャールズの決定的な違い

一方、エリックです。
彼は環境的には極限状態にありながらも、母親からは、ちゃんと愛されていました
その所為でしょうか。身内をとても信用しています。
万人には受け入れられなくても、ごく限られたコミュニティーで上手くやっていければそれでいいじゃないか的な、ある種の余裕を感じます。
チャールズが、誰からも恐れられないようにと、日々神経をすり減らしているのとは対照的です。

エリックは、自分の感情にも正直です。
強面のくせして結構すぐ泣くし(笑)、大事なものを傷つけられたら迷わずやり返します。”誰かの目を突き刺す”ことも厭わない。
集団のトップになれば、普通、チャールズのように政治家的なアタマを働かせ、得るものと失うものを計算して動くものですが、エリックは違います。
「感情は危うく、きちんと制御しなければ何が起こるか分からない」という考えは無いようです。この人、実際はめっちゃ流されやすいタイプだと思うんですけど…(笑)
My emotions make me strong“を、ジーンとチャールズはこの物語の最後でようやく悟りますが、エリックは初めからそういうタイプ。
スタジアム持ち上げたり、地下鉄引きずり出したりと、『俺らをコケにする連中には、目にもの見せてやるぜ』的ガキっぽい自己顕示欲爆発させても、決してそれを反省したりしない(笑)(『スタジアム』は、まあテレビの向こうの”クローゼットな”ミュータント達に向けたものだとしても、『地下鉄』は無いと思うんです。「あれ、何か意味ある?」という…(笑)「入り口塞いで一般人や仲間までやられないよう」っていうなら、そもそも外で大暴れすんなと)

まあそんなわけで、彼らが違う道を歩むことになったのは必然だったわけですが、意外だったのは、エリックが、チャールズに欠けたものが何かに気付いたこと
A long time ago, you saved my life. And you offered me a home.(昔、お前は俺の命を救い、俺に居場所をくれた) I’d like to do the same for you(今度は俺が、お前に同じことをしたい)”ですよ?
いやー、大人になったねーと思いましたね。
いや、実際もういいオッサンなんですけどね(笑)
今までのすったもんだを思えば、ちょっとグッとくるシーンでした。

でも若干、「何このハッピーエンド感…」って気分になるのは、やっぱりレイヴンの一件があったからでしょうか。ハンクの”Don’t leave me”がものすごく切ない…。
レイヴンは、ちゃんとハンクのヨメになって欲しかったなぁ。あの死の間際のやりとり見ると、プロポーズどころかまともに告白さえしていない感じ。くっついてたら、ものすごいバランスの取れた夫婦になってたと思うんですけど。

強く異質な者との共存は可能か

で、X-MENのメインテーマともいえる”異質なものへの寛容”話です。
この結末、ぶっちゃけ『同じレベルの者同士じゃないと、共に生きてくのはつらいよね』としか見えない。そして、それはまあ事実なんだろうと思います。

人間、誰しも生存本能を持っています。傍に居る人と力の差があっても、さほど恐怖を感じずに居られるのは、暴力装置としての警察や、加害者を罰する制度を、ある程度信頼しているからでしょう。
でも、これらが役に立たないぐらい、桁違いの力を持った相手が現れたら?
または、これらをいいように動かせるぐらい、相手が多数派になったら?

人類がジーンを恐れるのは当然のことです。
チャールズは、これは”gift”だと言ってジーンにペンを渡しながら、”You could choose to draw a really good picture with that or you could use it to poke someone’s eyes out.(君はこれを使って、素敵な絵を描くこともできるし、誰かの目を突き刺すこともできる)”、”What you choose to do with your gift, that’s entirely up to you(このgiftをどう使うかは、完全に君次第なんだ)”と言います。でも、周りに言わせれば、その「完全に君次第」というところが恐ろしい。
チャールズが、必死で『人類に役に立つ者』であろうとし続けたのは、人が抱くその恐怖を知り尽くしていたからでしょう。
人は、弱い者に対しては、労わって満足感を得ることも、無関心でいることもできます。しかし相手が強者となると、抱く感情は、”感謝・憧れ”、さもなくば、”恐怖・憎しみ”になりがちです。
受け容れられるには、無害で役に立つ者になるしかない。実際、ジーンの暴走を見た途端、大統領はチャールズからの電話に出なくなり、首輪を付けられて護送列車に放り込まれました。

一方、エリックは、『近い者同士がまとまって、異質な者同士は適度な距離を保つ』ことによって、こうしたリスクを避けています。
ただ、この方法にも限界はあります。個々人が入り混じっているより偶発的な衝突の機会は減りますが、各集団のトップが争うという判断をした途端、平和は脆くも崩れ去ります。
また、ミュータントの力はバラつきが非常に大きいですから、共通の敵がいなくなれば、今度は仲間内で強い者が弱い者を虐げることになるでしょう。仲間を何より大切にするエリックには、耐えがたいことでしょうが…。

結局は、ジーンのように別の次元に行ってしまうしか、道はないのかもしれません。
あの”cosmic force”は、偶然ジーンを直撃した”太陽フレア”ではなく、彼女自身が呼び寄せたものでした。
理想的な安住の地はないにしろ、なるべく心のままに生きられる場所を探すのが吉なのかもしれません。
ただ、最終的に共に居られなくても、傍から見て不幸な結末になったとしても、それが意味のなかったことなのかと言われれば、違うような気もします。

「奇麗すぎるからここには居られない。きっと物を壊してしまうから」という彼女に、チャールズは”If you break something … anything, I can fix it(君が何か…いや、何を壊しても、僕が直すよ)”と言います。
彼女は”Not anything(何でもは無理)”と言います。
事実です。その証拠に、レイヴンは生き返りません

「気持ち次第で何でもできる」と言うチャールズに、ジーンは”Show me. Walk to me(じゃあそれを見せて。ここまで歩いてきてよ)”と言い放ちます。いくら気合入れたところで、歩けないのが現実です。

チャールズは彼女に語ったことを何一つ実現できず、結果的に、自分のしたことによって彼女を死(あくまで「肉体的な」ですが)に追いやりました。
でも、その過程と結果が、ジーンとチャールズに残したものは結構大きかったように思います。勿論、良い意味で。
結局、こういうことを沢山味わった人間が勝ち組なのかなと、なんとなく思ったりしました。