映画『シェイプ・オブ・ウォーター』感想(ネタバレあり)

一昨日、アカデミー各賞を『多様性なんちゃら推進機構』とdisったついでに(笑)、「昨年の作品賞は、同じポリコレ関連商品でも結構良かった」という話をしてみたいと思います。
あらすじについては、もう山ほど記事があるかと思いますので、今回はあらすじナシで―――

努力家の社畜は差別主義者になりやすい?

航空宇宙研究センターで、国家一級機密=半魚人さんの警備に当たっていたリチャード・ストリックランド(マイケル・シャノン)さん。この人は、ものすごく悪役的な言動+顔(笑)で目立ちまくっていましたが、ぶっちゃけ小市民的な社畜に過ぎません。
読んでる本は、『The power of positive thinking』(笑)
まんま、現代サラリーマンの自己啓発的ノリですね。

指二本もがれる大怪我をしたのにすぐに出社、結婚指輪を落としても気にしない。家に帰っても仕事が頭から離れず、子供とろくにコミュニケーションも取ろうとしない。
とにかく上官の期待に応えようと、どんな手でも使います。

一方、自分より下と見た相手は徹底的に侮辱します。上下関係は神聖にして侵すべからず。上に立った自分はその権利があると思い、また、相手はそうされるのが妥当な存在だと思っています。

What am I doing? Interviewing the fucking help. The shit cleaners. The piss wipers

これは、半魚人に逃げられた後、清掃係に事情聴取したときの独り言です。聞こえるように言う辺りが、「もうどこまでナメてんだ?」という感じですね(笑)
そしてその後、彼は上官との会話でこんなことを言っています。

He fails once. Only once. What does that make? Does that make him a failure?(たった一回のミスです。それで落伍者扱い?)
When is a man done, Sir? Proving himself? A good man. A decent man(自分がきちんとした人間であることを、いつまで証明し続けなければならないのですか?)”

いやもう、リーマンは実に身につまされるセリフです。(とくに異動の多い年度末に聞くと…)
冷戦時代には、これはエリート限定の話だったのだと思いますが、今は正社員全体がこんな感じなんですよね。

やればとりあえず結果が出るような仕事は、今や全て、アルバイト、パート、派遣の仕事。実際、「総務や人事を覗いたら、課長以外全部派遣」という会社は多いと思います。
社員には、チャレンジャブルな仕事を自ら生み出して、しかも成功させていくことが常に求められている。“Creative or Die”(創造的たれ、さもなくば死ね)の『創造的』は、とりあえず生み出せばそれで良いというものでもなく、常に、会社に利益をもたらすものを生み出し続けなければならない―――これはものすごく疲れます

時間も使います。帰りは遅いし、休日は多くの時間を、勉強や情報収集、アイディア出しなどに使う。ぶっちゃけ、ど平日に優雅にイクメンなんてやってられるのは極々一部でしょう。
過酷な状況で歯を食いしばって頑張っているから、そういう場所に立たない人を見下し、また、努力の”果実”として、他人を支配することを望むんじゃないでしょうか。

この映画は、そういう人達に『そこまで疲れてんなら、あんたらの言う底辺になった方がマシなんじゃないの?』と突っ込みを入れているような気がするんですよね。

ちょっと戦略ミスだなと思うのは、ラストで彼を殺してしまったこと(結果として、半魚人さん事件を彼がどう受け止めたかが分からない)。それから、突っ込みを入れたいタイプの人が、おそらくはこの映画を観ないってことですね(笑)

多文化共生の功罪(猫を食われること、ハゲが治ること)

イライザ宅に連れて来られた半魚人さんは、威嚇してきた猫を殺し、頭から食べてしまいます。
一方で彼は、ジャイルズの頭と引っ掻き傷に触れ、ハゲと傷を治してしまいます。
ジャイルズは混乱しながらも、猫がやられたことを「本能だから仕方ない」と言い、髪が生えてきたことを喜びます。

猫が食われるシーンを隠さず、しかも殊更にグロく描いた辺り、この監督は誠実だと思います。要は、多文化を容れることは、猫の死を覚悟することなわけです。

先日、ベトナム人がカルガモを捕まえて食べようとしたというニュースが流れました。こんなのはまあ些細なことですが、某宗教の原理主義者を受け入れ、多神教徒を〇せだの、女は殴って躾けろだのという教えをその通り実行したら、笑いごとでは済みません。

イギリスでも先日、移民の親が、同性愛に関する授業をボイコットさせ、生徒が大量に欠席する事件が起きました。福音主義の方々だけでは大した数にはなりませんが、イスラム系移民の子供が大人になって選挙権を得たら、同性愛者の人権が再び抑圧される時代になるのは必至です。彼らは多産であるだけに、その影響度はおそらく先に行くほど大きくなります。
勿論、労働力の需給バランスが変わることで、経済的な変化もあります。

要は、『功罪』のうち、『罪』の方もきちんと予想した上で、何をどこまで容れるかを判断する必要があるということでしょう。また、それをやろうとしている人を潰さないことです。

かつてメルケル氏が、ダブリン協定を無視して「移民のみなさんいらっしゃい」表明をしたことで大量の移民が発生し、オーストリア外相(現首相)のクルツ氏が「おめーの所為だろうが!」とキレてましたが、メルケル氏は元々、身の丈に合った移民受け入れをしようとしていました。「すべての人を受け入れることはできない」と言って子供を泣かせた一件は、映像にも残っています。
彼女を散々攻撃して、野放図な移民受け入れに走らせ、後で、「こんな筈じゃなかった」と言う人々、さらにこの期に及んでも、「自分たちの選択にはプラスの効果しかなかった」と強弁する人々は、やはり無責任だと思います。(まあ、民意に流されて極端な”寛容政策”を推し進め、その後、反省の弁がないメルケル氏もそれなりに無責任ではありますが)
ものには必ず、メリットとデメリットがあるのです。『西洋の自死』を読んで「そうだ」と言う人々の声を、「差別主義者」というレッテルで封じるのは危険なことではないでしょうか。

多分この映画についても、猫が頭から食われるシーンについては、動物愛護系の方々と、多文化共生系の方々、双方から非難を受けたんじゃないかと思います。
でも映画『ウトヤ島、7月22日』は許されても、ベルリンのクリスマス市トラック突入事件はダメというのはないと思うんですよ。
国民の一票でどうにでもなる民主主義国家には、さまざまな議論を許す土壌というのものが、絶対に必要だと思いますね。

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