ロシア旅行記:クインジ&アイヴァゾフスキー(サンクトペテルブルク ロシア美術館)編~ロシア革命&美術&音楽の軽度オタがロシアを旅した話 その9

クインジ『ドニエプルの月夜』/ Arkhip Kuindzhi "Moonlight Night on the Dnieper" / Куинджи А.И. "Лунная ночь на Днепре"

本日ご紹介するのは、アルヒープ・イヴァノヴィチ・クインジ(Архип Иванович Куинджи)さん、そしてイヴァン・コンスタンチノヴィチ・アイヴァゾフスキー(Иван Константинович Айвазовский)さんです。

どちらもロシア帝国の方でしたが、クインジさんは現ドネツク出身のギリシャ系、アイヴァゾフスキーさんはクリミア出身のアルメニア系です。いずれも西側諸国の認識としては現ウクライナ。今見るとこの出身地、えらくキナ臭いですね。
親露地域(っていうか、クリミアはもうロシア連邦に併合されちゃって、先日、アップルとGoogleもソレ認めちゃったけど)なので、「絵を返せ」とは言わないと思いますが…。

さて、今回のロシア旅行、『絵画』的には不運続きでした。その第一弾がコレ↓

『ドニエプルの月夜』はトレチャコフ美術館に持っていかれてた…

ドニエプルの月夜(Лунная ночь на Днепре)です。
ガラスに描かれていて、後ろにランプが置いてあるんだ」とまで言われた“光”の傑作。いくつかバリエーションがありますが、これはその代表的なものです↓

クインジ『ドニエプルの月夜』/ Arkhip Kuindzhi "Moonlight Night on the Dnieper" / Куинджи А.И. "Лунная ночь на Днепре"

※このページの写真は、クリックすると大きなサイズで表示されます。

1880年にこの絵一点だけの展覧会が開かれ、長蛇の列となったことで有名です。
「もう一回見たい」の筆頭だったわけですが、なぜかあった筈の所にない。訊いてみると、「モスクワで大きな展示会があり、そこに持って行かれた」とのこと。
「え? これからモスクワ行くから、もしかしてラッキー?」と思ったら初日が一週間先だったという…。(痛恨過ぎる…)

ちなみにこの展示会、盗難事件があってTVで報道されたため、何が展示されていたのかはうっすら分かりました(笑)

ちなみに、盗まれた絵が『Ai ペトリ クリミア(Ай-Петри. Крым.)』だったので、「政治的動機によるウクライナ人の犯行か!?」と思ったんですが、ВЕСТИによると金目当てだったらしい…。
まあでも犯人の出身地はクリミアと報道されてましたし、ロシアには報道の自由はありませんから、ぶっちゃけ真相は分かりません。

『虹』は富士美術館に持っていかれてた…

これは盲点でした。なんと日本に帰ってきたら富士美術館にあったという…(笑)

クインジ『虹』/ Arkhip Kuindzhi "Rainbow" / Куинджи А.И. "Радуга"

富士美術館で『国立ロシア美術館所蔵 ロシア絵画の至宝展 夢、希望、愛─アイヴァゾフスキーからレーピンまで』なるものが開かれていました。ちなみに開催期間はもう終了しています。

クインジさんの絵に限らず、ロシアの風景画(主に移動派系の方々)を見るとまず思うのは「光源がヘン」「雲がモノを言い過ぎてる(笑)」「なんかよく分かんないけど、得体の知れんモンがどっしり横たわってる」です。
「心象風景を絵にする」的なものが流行りだったのかもしれませんが、リアルロシア風景も、日本人が見るとなんか異様なんですよね。

コローメンスコエ / Kolomenskoy / Коломенское

↑以前、モスクワ郊外のコローメンスコエで撮ったもの

青空をバックに折り重なった黒い雲とか、どんより曇ってるのに横から強烈な日差し、ってなことがよくあります。
サンクトペテルブルクでは、さらに雲の動きがめっちゃ速い。なんというか、空が、モノ言う生命体って感じがする…。
マグリットの『光の帝国』なんかは、人為的に狙った異様さなんですが、ロシアの場合、生の景色を映すだけでちょっと異様な感じになるという、ある意味おトクな環境だと思います(笑)

『第九の波濤』も富士美術館に持っていかれてた…

「創価学会、どんだけ力持ってんだ!」とツッコミを入れたくなった作品。アイヴァゾフスキー『第九の波濤』(部分)です。

アイヴァゾフスキー『第九の波濤』/ Ivan Aivazovsky "The Ninth Wave" / Айвазовский И.К. "Девятый вал"

水の透明感がハンパなく、近寄ってみても後ろが透けているようにしか見えない(笑)

ちなみにこの方、クインジさんの師匠で、クインジさんも昔はこんな感じ↓の絵も描いてました。
«Волны», Архип Иванович Куинджи

が、「なんかチガウ…」と思って止めたらしい(…かどうかは知らない(笑))

↓こちらは無事観ることができた作品。『波(Волна)』です。「まんま」なタイトルですね(笑)
泡の網がもう神経症的にリアルです。

アイヴァゾフスキー『波』/ Ivan Aivazovsky "The Wave" / Айвазовский И.К. "Волна"

アイヴァゾフスキー『波』/ Ivan Aivazovsky "The Wave" / Айвазовский И.К. "Волна"

ピョートルさん付のこんな絵(部分)↓もありますが、人間のイケてなさは別の意味でハンパない(笑)

アイヴァゾフスキー/ Ivan Aivazovsky "Peter I at Krasnaya Gorka Lighting a Fire on the Shore to Signal to his Sinking Ships" / Айвазовский И. К. "Петр I при Красной Горке, зажигающий костер на берегу для подачи сигнала гибнущим судам своим"

ちなみに富士美術館さん、展示作品のチョイスは素晴らしかったのですが、画集がイケてなさすぎました。真ん中で絵がぶった切られる見開きばっかりってのはどうなのと…。
是非とも再考をお願いしたいです。

富士美術館 国立ロシア美術館所蔵 ロシア絵画の至宝展

美術館鑑賞の心得

ロシアの美術館は、だいたい世界標準の「写真はOKだけどフラッシュはダメ」「上着、傘、デカすぎる荷物はクロークに預けて」辺りに気を付けていれば危険(?)はありません。
ただ、カメラのAF補助光には要注意。ピント合わせようとすると赤く光るアレです。「フラッシュじゃないしー」とやってると、係員の方に注意されます。まあ光当てれば絵は痛みますから、当然と言えば当然。
上着についても、「じゃまだったら預けりゃいいや」ではなく、預けることを強要されますので、そこでムッとしないようお願いいたします(笑)

なお、他の施設との共通券、二日券など、いろいろなタイプのチケットがありますので、事前に調べていくとオトク。

音声ガイドについては、日本語バージョンはまずありません。
でも、ロシア美術館・トレチャコフ美術館辺りで幅を利かせてる絵は「ほぇ~」と見惚れるというよりは、絵の向こうのナニモノかと魂で会話する的な鑑賞法が合ってる気がするので、何にも持たずにゆっくり回った方が良いように思います。いや、単なる個人的な感想ですけど…(笑)

古い作品(著作権切れ)は、Webサイトにも多く上げられていますので、「ロシアまで行ってらんないよ!」という方は、そちらをチェックしてみるのも良いかも。
例えば↓
Картина После дождя, Куинджи
Картины Айвазовского

クリミア、ドネツク、ルガンスク

最後に出身地ネタを少し。

まずはクリミアです。
黒海艦隊の母港があること、かつてフルシチョフがウクライナの支持基盤を固めるための手段としてウクライナに割譲したこと、ロシア系住民が多かったこと、などイロイロ特殊事情があったにせよ、一度は認めた国境線を堂々となかったことしちゃったプーチン
彼の言い分は、「住民投票によるコソボ独立は認められたのに、クリミアでそれを認めないのは西側諸国のダブスタだ!」でした。まあ確かにダブスタですが、国が正義だの人権だのと言い出すときはだいたいダブスタです。ロシアだって連邦内で同じことが起きたら、絶対に叩き潰すでしょう。

要は、民主主義国の倫理観も、国際法も、小国が生き延びるための力にはならないってことです。
「手を出したらとんでもない返り討ちを食らう」と思わせるだけの力を持つこと、一国だけで圧倒的な力が持てないなら、強固な軍事同盟を組むこと、ぶっちゃけこれしかありません。

ウクライナは、このどちらも持っていませんでした。GUAMという反露機関はありますが、軍事同盟ではありません。EUと連合協定を結んでいますが、EUに加盟しているわけでも、NATOに加盟しているわけでもありません。

前大統領のポロシェンコさんは、親露ヤヌコビッチさんからカラー革命並みに胡散臭いやり方で(笑)政権取ったわけですが、その後の政権運営は、ロシアに介入の口実を与えるような右派の動きを野放しにしたり、サーカシビリ並みに西側の支援を妄信していたりと、結構ダメダメ…。
でも、NATOに加盟しなければ国が亡ぶという危機感は、どう考えても妥当なものだったと思います。↓
ウクライナのEU・NATO加盟は現実的な課題=大統領

まあ、でもそのNATOも今では、マクロンに「脳死」と言われる体たらくですけどね(笑)
同盟国チェコを易々と売り渡したことで、いい気になったナチスがポーランドに侵攻し、しかも英仏がポーランドをまともに助けなかったことで、ナチスがますます勢いづいた―――といった歴史を考えると、同盟というのは「あれは良い」というものでもない。敵対勢力に付け込まれないだけの結束が必要ってことでしょう。
(ちなみに、今ウクライナで大統領やってる元コメディ俳優は、まだ何考えてんのかよく分かりません(笑))

そんなわけで最近、常設の欧州軍なるものが盛んに議論されているわけですが、日本では、どうもお花畑全開という人が多く、ものすごく心配…。(9条は日本を守ってくれないし、仮に個々の国が個別的自衛権しか持たなかったら、軍事超大国と核&ミサイル保有国と緩衝地帯の国以外全滅しちゃうと思うんですが…)
日本が平和だった時代と、日本単体では無防備でいた時代が重なっていたことが、変な成功体験になっちゃってるんじゃないかと思いますね。

次はドネツク、ルガンスクです。
ここはロシア系住民が多く住む地域で、住民が勝手に『共和国』を名乗り、ロシアへの編入を求めています。
が、ぶっちゃけロシアは編入しないでしょう。ロシア的には、親露反欧米的な緩衝地帯があればいいわけで、経済制裁強められてまで取る意味がない。セヴァストポリ抱えたクリミアとは訳が違います。
「ウクライナ民族主義者の弾圧からロシア系市民を守る!」とかナントカ言ってますが、民間人の振りした軍人が裏で地味に支援する以外は、物資の支援とか、今進めてる『ロシア国籍を簡単にあげるよ!』が良いところなんじゃないかと―――。

要は、大国は完全に自己都合で動く、ダブスタもなんでもアリ、だから自分のことを自分で決めるには力と、利害の一致した仲間が必要ってことです。この辺りのことを日本人もしっかりと肝に銘じる必要があるんじゃないでしょうか。

というわけで、最後にクインジさんの若き日の写真を―――。
控えめに言ってもイケメンですね(笑)

クインジ / Arkhip Kuindzhi / Куинджи А.И

次回はクラムスコイさんとシーシキンさんです。